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長野地方裁判所 昭和54年(行ウ)4号 判決

長野県駒ケ根市下平四三一九番地の二

原告

石田建設株式会社

右代表者代表取締役

石田博美

石田祐一

右訴訟代理人弁護士

倉田靖平

右訴訟副代理人弁護士

小森泰次郎

長野県伊那市西町区伊那部

被告

伊那税務署長

振角秀行

右指定代理人

一宮和夫

屋敷一男

六馬二郎

山本宏一

戸川忠志

高林進

主文

一  本件訴えのうち、被告が原告の昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正のうちの所得金額八五二万八九一〇円を超えない部分の取消を求める部分を却下する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  被告が昭和五二年三月三〇日付で原告の昭和四九年五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度の法人税についてした更正並びに重課税及び過少申告加算税の賦課決定を取消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  原告の請求をいずれも却下する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告の昭和四九月五月一日から昭和五〇年四月三〇日までの事業年度(以下「本件事業年度」という)の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正(以下「本件更正」という)並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定、国税不服審判所長がした審査裁決の経緯は、別表(一)記載のとおりである。

2  しかしながら、被告がした本件更正のうち原告の確定申告に係る所得金額八五二万八九一〇円を超える部分は原告の所得を過大に認定したものであるから違法であり、したがって本件更正を前提にした前記重加算税及び過少申告加算税の賦課決定も違法である。

よって、原告は、本件更正並びに重加算税及び過少申告加算税の賦課決定の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1は認める。

2  同2は争う。

三  被告の主張

1  原告の本件事業年度の所得金額は、原告の申告に係る所得金額八五二万八九一〇円に次の(一)ないし(五)の各金額(但し右金額には本件更正における金額と異なるものがあり、その場合はかっこ内の記載が本件更正の金額である)を加算し(六)の金額を控除した四一四四万一六八円であるから、その範囲内である三九三三万六四四円を所得金額としてなされた本件更正は適法である。

(一) 向島の土地譲渡収入計上漏れ 一三〇〇万円

(二) 向島の土地取得原価否認 六一五万二四二九円

(三) 駒ケ根の土地建物譲渡益計上漏れ 七一一万一五三五円(四九七万五三〇八円)(四) 寄付金限度額超過による損金不算入額 四五六万五八五四円(四五九万二五五七円)

(五) 労務費否認 二三八万円

(六) 未納事業税の損金算入額 二九万八五六〇円

2  前記1の(一)の向島の土地譲渡収入計上漏れについて

(一) 原告は、昭和四九年一〇月二三日、南総建設株式会社(以下「南総建設」という)に対し、原告所有の東京都墨田区向島五丁目一五番一号外二筆の宅地合計面積四二五・一五平方メートル(以下「向島の土地」という)を代金五四〇万一一五〇円で売り渡したが、右売買代金のうちの一三〇〇万円については本件事業年度の売上げに計上しなかった。

(二) しかしながら、右一三〇〇万円は向島の土地の売買代金の一部であるから同金額は売上計上漏れとして本件事業年度の所得金額に加算すべきである。

3  前記1の(二)の向島の土地取得原価否認について

(一) 原告は、本件事業年度において、後記4記拠の長野県駒ケ根市赤穂字北新井一五五〇八番八外四筆の宅地合計面積一〇三八平方メートル及び同土地上の各建物(以下「駒ケ根の土地建物」という)の買取り価額七五〇万円についてもこれを向島の土地取得価額に含めて原告の損金に算入している。

(二) しかしながら、駒ケ根の土地建物は、原告(当時の商号は「株式会社石田組」)がその代表取締役の石田祐一(以下「祐一」という)に対する貸付金を整理するために昭和四一年四月三〇日に所有者である祐一、その妻石田勢津子、祐一の妹石田容子らから買取ったもの(代金は右貸付金と対当額において相殺)であるから、駒ケ根の土地建物の取得価額に組み込むべき理由はない。

(三) しかるところ、原告は、昭和四九年四月三〇日以前の事業年度において駒ケ根の土地建物のうちの建物につき減価償却をしており、その累計額一三四万七五七一円を損金に算入していたが、本件事業年度において右減価償却費の累計額一三四万七五七一円を控除した残額六一五万二四二九円は本件事業年度に算入されるべきものではない。

4  前記1の(三)駒ケ根の土地建物譲渡益計上漏れについて

(一) 原告は、昭和四一年四月三〇日に祐一らから買取った駒ケ根の土地建物を昭和五〇年四月三〇日に祐一に無償で譲渡した。

(二) しかるところ、資産が無償で譲渡された場合でも法人税法二二条二項においては収益の額を計算して益金に算入すべきものとされており、その収益額は当額資産の譲渡時の価額と解されるから、駒ケ根の土地建物の昭和五〇年四月三〇日当時の時価一四六一万一五三五円から右土地の取得価額七五〇万円を控除した譲渡益七一一万一五三五円は本件事業年度の所得金額に加算すべきである。

5  前記1の(四)の寄付金の限度額超過による損金不算入額について

(一) 原告は、石田コンクリート工業株式会社(以下「石田コンクリート工業」という)に対して有する貸付金四九八万二四五三円が回収不能になったので右貸付金は貸倒損失に該当するとして、これを本件事業年度の損金に算入した。

(二) しかしながら、石田コンクリート工業は債務超過のため会社資産の全てを売却したうえで昭和四七年四月末日かぎりその事業を廃止しており、原告の右貸付金は、同社の右事業廃止後に貸付けられたものである。

(三) したがって、既に事業を廃止し再起の見込みのない石田コンクリート工業に対する前記貸付けは、当初から回収の見込みの全くない状況で行われたものであるから、これを貸倒損失と認めることはできないし、また、右貸付けは、原告の事業に何らの関係もなく対価の受授もないから、無償による金銭の給付であったことは明らかである。

(四) そこで、被告は、前記貸倒損失を否認し、これを法人税法三七条五項に規定する寄付金と認定したものであって、同条二項の規定による寄付金の損金算入限度額を超える四五六万五八五四円(算定の明細は別表(二)記載のとおり)は本件事業年度の原告の所得金額に加算すべきである。

6  各加算税の賦課決定について

(一) 原告は、本件事業年度において向島の土地の譲渡収入一三〇〇万円及び労務費二三八万円を隠べい又は仮装して、その所得を過少に申告していたものである。したがって、被告は、国税通則法六八条一項の規定により、増加法人税のうち右隠べい又は仮装されていた部分の金額に対応する法人税額に対する一〇〇分の三〇の割合による重加算税を賦課する決定をしたものであり、また右増加法人税額のうち、隠べいまたは仮装されていた金額を控除した額の全部については、同法六五条二項に規定する正当な理由があると認められなかったので、同条一項の規定により、右法人税残額に対する一〇〇分の五の割合による過少申告加算税を賦課する決定をしたものである。

(二) 向島の土地譲渡収入計上漏れ金額に対する重加算税の賦課決定について

(1) 原告は、向島の土地の譲渡収入のうち一三〇〇万円の原告の帳簿に計上せず、当初被告に対し、右土地には工作物及び地下室(以下「工作物等」という)があり、右工作物等の除去工事を南総建設から一三〇〇万円で請負い、その工事を大一産業株式会社(以下「大一産業」という)に一二五九万四六四六円で下請負させたもので、原告にはほとんど利益がないことから帳簿に記載計上しなかったと虚偽の事実を申立てるとともに、右工事についての原告と南総建設との間の契約書であるとして「工事請負契約書」る、大一産業が原告から右工作物等の除去工事を請負った旨が記載されている文書として「注文請書」をそれぞれ提出した。

(2) その後原告は、従来の申立てを変更し、右一三〇〇万円のうち一二五九万四六四一円は向島の土地の売買の仲介料として大一産業の役員である伊東兼文(以下「兼文」という)に支払ったもので、前記「注文請書」は仲介料の領収書であるとの虚偽の申立てをした。

(3) 右(1)、(2)はいずれも法人税の課税標準又は税額の基礎となるべき事実の隠べい又は仮装に該当する。

四  被告の主張に対する認否と原告の反論

1  被告の主張1の各加算金額のうち(五)を加算すべきことは認め、(一)ないし(四)を加算すべきことは否認する。

2  被告の主張2の(一)のうち、向島の土地か原告の所有であったことは否認し、その余は認める。

向島の土地は祐一が所有していたもので、原告は右土地の売却処分機能を有していたにすぎない。したがって、本件売却代金五四〇万一一五〇円は祐一の個人所得に属するものであって、原告が右土地の譲渡申告をしたのは原告の錯誤によるものである。

同(二)は争う。

3  被告の主張3の(一)の事実は認める。

同(二)のうち、原告が祐一に対する貸付金を回収整理するために昭和四一年四月三〇日に駒ケ根の土地建物を祐一らから買ったことは認める。

前記のとおり、向島の土地の譲渡収益を原告の所得金額に算入するのは違法である。

4  被告の主張4の(一)のうち、原告が昭和四一年四月三〇日に祐一に譲渡したことは認め、その余は否認する。

同(二)は争う。

昭和四一年になされた原告と祐一らとの前記駒ケ根の土地建物の売買契約には、祐一らが昭和五一年四月三〇日までに原告に対し代金七五〇万円と契約費用を支払って当該土地建物を買戻すことができる旨の定めがあった。しかるところ、祐一は、向島の土地の売買代金から七五〇万円と右契約費用を原告に支払っているので、駒ケ根の土地建物はその時点で祐一らに無条件で返還されて当然のものであるから、右は無償譲渡とは言い難く、法人税法二二条二項にもとづく課税は不当である。

5  被告の主張5の(一)の事実は認める。

同(二)のうち、石田コンクリート工業が債務超過のため会社資産の全てを売却し昭和四七年四月末日をもってその事業を廃止したことは認め、その余は争う。

同(三)及び(四)は争う。

石田コンクリート工業は、国民金融公庫から、昭和四六年四月に二三〇万円を、ついで昭和四七年四月に一一一万円を借り受け、なお他に一五八万二〇〇〇円の債務があり、原告は右各債務について連帯保証をしていた。その後、前記のとおり石田コンクリート工業は事業を廃止したため、その連帯保証人である原告は右各債務を代位弁済し、石田コンクリート工業に対し四九八万二四五三円の求償債権を取得した。しかし、同社は全く支払能力がなく、右求償債権の実現は不可能であったので、原告は、右求償債権を放棄したもので、原告の帳簿上右求償債権が資金として記載されているのにすぎないのであるから、これを寄付金と認定したのは不当である。

6  被告の主張6の(一)のうち、労務費二三八万円に対し重加算税が賦課されるべきことは認め、その余は争う。

第三証拠関係

一  原告

1  甲第一ないし第一二号証、第一三ないし第一六号証の各一、二

2  証人酒井芳治、同小林正志、同牛尼吉三、原告代表者石田祐一(以下「原告代表者祐一」という)

3  乙第一、第七、第一二、第一四号証の成立はいずれも知らない。その余の乙号各証の成立はいずれも認める。

二  被告

1  乙第一、第二号証、第三号証の一ないし三、第四号証、第五号証の一ないし五、第六、第七号証、第八号証の一ないし三、第九、第一〇号証の各一、二、第一一ないし第一五号証、第一六号証の一ないし三

2  証人青木繁之、同石川守人

3  甲第一ないし第七号証、第一一、第一二号証の成立はいずれも知らない。その余の甲号各証の成立はいずれも認める。

理由

一  請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

二  原告は、本件更正処分の全部についてその取消しを求める法律上の利益がないから、右部分についての本件訴えは不適法といわざるをえない。

三  本件更正に原告主張の違法が存するか否かについて判断する

1  原告の申告に係る所得金額に被告の主張1の(五)の金額を加算すべきことについては当事者間に争いがなく、同(六)の金額を控除すべきことについては原告において明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

2  被告の主張1の(一)の向島の土地譲渡収入計上漏れについて

(一)  原告と南総建設の間に、昭和四九年一〇月二三日原告が向島の土地を代金五四〇七万一一五〇円で南総建設に売却する旨の契約(以下「本件売買契約」という)が締結されたことは当事者間に争いがなく、また、原告が右売買代金のうち一三〇〇万円を原告の本件事業年度の売上げに計上しなかったことも当事者間に争いがない。

(二)  前記のとおり、原告が本件売買契約の一方の当事者であることは当事者間に争いがなく、成立に争いがない乙第一一号証によれば、本件売買契約の締結にあたって作成された「土地売買契約書」上も売主として原告が表示されていることが認められるところ、原告は、右契約締結当時、向島の土地の売却処分機能があったにすぎないから、右土地の譲渡収益は祐一個人の所得に含まれるべきものであると主張する。

しかしながら、以下に述べる理由により、この主張は採用できない。すなわち、

(1) 証人青木繁之の証言及びこれによって真正に成立したと認められる乙第一号証によれば、向島の土地の売買代金として、昭和四九年一〇月二三日に八三四万円が、昭和五〇年四月一一日に四五七三万一一五〇円がそれぞれ小切手で南総建設から原告に対して支払われたことが認められるにもかかわらず、その後この売買代金が原告から祐一個人に支払われたことを窺わしめる証拠は存しないし、祐一自身も、原告代表者祐一の尋問の結果中で、向島の土地の譲渡収益についてこれを祐一個人の所得として確定申告してはいけないことを自認している。また、いずれも成立に争いがない乙第五号証の一ないし五及び同第六号証、証人青木繁之、同石川守人及び同酒井芳治の各証言並び原告代表者祐一の結果によれば、原告は、本件事業年度の決算及び確定申告並びに更正に対する審査請求において一貫して原告会社所有の向島の土地が売却されたとの処理、主張をなしていたもので、本訴においてはじめて右土地は祐一個人の所有であったとの主張をするに至ったこと、原告の帳簿上も向島の土地の譲渡収益が原告の所得とされているところ、かような帳簿上の処理は、祐一が原告会社の経理担当従業員である酒井芳治に指示して行なわせたものであり、しかも右処理については花輪清二税理士の指導もあったことをそれぞれ認めることができる。原告代表者祐一の尋問の結果中の右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。さらに、いずれも成立に争いがない乙第八号証の一ないし三及び同第一五号証並びに原告代表者祐一の尋問の結果を総合すれば、向島の土地については、昭和四〇年三月二日付で前所有名義人の鈴木フミから原告への所有権移転答記が経由されて以降、本件売買契約の履行として南総建設への移転登記がなされるまでの間登記簿上の所有名義人は(屋号変更前は「株式会社石田組」の表示)のままであったこと、かって、向島の土地の所有権の帰属をめぐって原告と鈴木フミとの間に訴訟が係属したことがあり、本件売買契約締結前である昭和四八年一二月七日に右土地が原告の所有である旨の判決が確定していること、原告は、原告の訴訟代理人として石訴訟を追行した倉出靖平に対して成功報酬として六一八万一五一三円を支払い、向島の土地の譲渡益を計算するにつき石成効報酬料を経費として控除の対象としていることをそれぞれ認めることができる。右の各事実は、いずれも、向島の土地が原告の所有であったことを指し示しているというべく、本誌において原告が主張するように、原告は、向島の土地につき単にその売却処分権能を有していたにすぎなかったとすると、右各事実との間には大きな矛盾、不合理が生じることとなる。

(2) 前掲乙第六号証、いずれも成立に争いがない甲第一三ないし第一六号証の各一、二、乙第九、第一〇号証の各一、二及び第一六号証の一ないし三を総合すれば、原告は、祐一に対し、昭和四一年四年三〇日当時二〇五八万八三八五円の貸付金債権を有していたところ、同日、祐一所有の向島の土地を一二〇〇万円で、また祐一ほか二名所有の駒ケ根の土地建物を七五〇万円でそれぞれ原告が買受取得し、右代金に松本の土地取得の謝礼金名義の二五〇万円を加えた合計二二〇〇万円の債務と右貸付金債権とを対当額において相殺する旨の経理上の処理をなし、以後本件売買契約締結に至るまで向島の土地を不動産部勘定の科目で資産に計上していたことが認められる。

この点に関し、証人牛尼吉三の証言及び原告代表者祐一の尋問の結果によっていずれも真正に成立したと認められる甲第五号証及び同第一二号証には、昭和四一年四月二四日に開催された原告の取締役会において、原告は、祐一に向島の土地を担保提供させて株式会社八十二銀行から一二〇〇万円を借入れ、これを祐一に貸付け、この新規貸付金を従前から原告が祐一に対し有していた貸付金の返済に充てさせること、原告が祐一に貸付ける一二〇〇万円に対し祐一は原告にいわゆる銀行利子相当額を支払うこと、向島の土地については原告の不動産部がこれを任意に売却できる権利を取得すること及び右土地の売却代金をもって八十二銀行からの前記一二〇〇万円の借入金を返済すること以上の内容の決議がなされた旨の記載があり、証人牛尼吉三及び同小林正志の各証言並びに原告代表者祐一の尋問の結果中には、右決議が実行された旨の、あるいは不動産部勘定の実質は原告の祐一に対する一二〇〇万円の貸付金勘定である旨の各供述が存し、さらに、前掲甲第一三ないし第一六号証の各一、二によれば、原告の昭和四一年五月一日から昭和四五年四月三〇日までの四期(第一四ないし第一七期)にわたる各決算報告書には、第一四期に九八万六四〇〇円、第一五期に九六万八六〇〇円、第一六期に九七万八三六〇円、第一七期に九八万二一四一円がいずれも貸付金利子として祐一から原告に支払われた旨の記載がなされていることが認められる。

しかしながら、(ア)前掲乙第八号証の一ないし三によれば、向島の土地については、前記の取締役会決議前である昭和四〇年一二月九日受付の、原因昭和四〇年一一月一六日設定契約、元本極度額一二〇〇万円、債務者原告、根抵当権者株式会社八十二銀行なる根抵当権設定登記が経由されているけれども、前記取締役会決議のあった昭和四一年四月二四日以降には権利者を八十二銀行とする担保権設定登記がなされた形跡のないことが認められる。また(イ)前掲甲第一三ないし第一六証の各一、二、乙第九、一〇号証の各一、二、及び同第五号証の一ないし五によれば、原告の決算報告書においては、第一四期から第一七期にかけて、支払人を祐一とする貸付金利子(受取利息)の額とほぼ同額で各事業年度の原告の未収利子額が増加し(未収利子額の前年度からの増加額は、第一四期が八二万四三〇一円、第一五期が八〇万七五八三円、第一六期が九七万四九四八円、第一七期が九八万二一四一円で特に第一七期の増加額は同期の祐一からの受取利息の額と同額)、ついで第二一期までは未収利子の額(三九〇万九一八一円)に変動がないまま推移し、第二二期に至るやそれに見合う受取利息がないのに未収利子の科目が消失している事実が認められ、これからすると、前記第一四期ないし第一七期の各決算書類における祐一から原告に対する貸付金利子支払の記載は実体を伴わない帳簿上の操作にすぎないとも解せられるところであり、加えて、第一八期以降の事業年度において祐一からの原告への前記取締役会決議に基づく貸付金利子の支払がなされてたことを窮わさせる資料もない。しかも(ウ)前掲乙第九、第一〇号証の各一、二によれば、原告の第二〇期及び第二一期の各決算報告書中の不動産部勘定内訳書には簿価を一二〇〇万円とする本件土地が明記されていることが、前掲乙第五号証によれば、第二二期決算報告書上、本件土地売却による利益の額を四三八万九九八円としてこれを固定資産売却益に計上していることがそれぞれ認められる。

そこで、右の(ア)ないし(ウ)の事情及び前記(1)で認定した各事実を合わせ考えれば、前記取締役会決議自体は真実存在するとしても、原告において向島の土地につき右決議どおりの処理をなしたかは極めて疑わしいし、不動産部勘定の内容は貸付金であるとの供述も措信し難いといわざるをえない。

(三)  右(二)で述べたところからすれば、本件売買契約締結当時の向島の土地の所有者は原告であると断ぜざるをえず、これを否定する、証人牛尼吉三、同酒井芳治及び同小林正志の各証言亦びに原告代表者祐一の尋問の結果中の各供述部分はにわかに措信し難い。

したがって、向島の土地を譲渡したことによる譲渡益をすべて本件売買契約の一方の当事者(売主)である原告の所得とすることになんら支障はないから、前記計上漏れの一三〇〇万円は本件事業年度の原告の所得金額に加算されるべきこととなる。

3  被告の主張1の(二)の向島の土地取得原価否認について

(一)  被告の主張する3の(一)の事実は当事者間に争いがなく、同(二)のうちの、原告が祐一に対するために(貸付金債権を消滅させる手段として)昭和四一年四月三〇日に駒ケ根の土地建物を祐一から代金七五〇万円で買取ったこと(代金債務と貸付金債務とを対当額で相殺)もまた当事者間に争いがない。

そして、前掲乙第五号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、被告の主張3の(三)の事実を認めることができる。

なお、向島の土地の譲渡収益が本件事業年度の原告の所得金額に加算されるべきものであることは前記2で判示したとおりである。

(二)  右各事実によれば、駒ケ根の土地建物の買取価額七五〇万円を向島の土地の取得原価に加算する原告の帳簿整理は明らかに誤りであり、被告がこれを否認したのは当然のことといえる。しかるところ、本件事業年度において駒ケ根の土地建物の譲渡益が原告の所得金額に加算されるべきものであることは後に述べるが、そうすると、原告が駒ケ根の土地建物ににつき本件事業年度以前において損金算入した減価償却費の額一三四万七五七一円を本件事業年度において戻入れ、これを益金に算入している点からすれば、右一三四万七五七一円は原告の所得金額から控除されて然るべきものと解せられる。したがって、向島の土地取得原価の否認という呼称が相当かはともかくとして、原告が向島の土地の取得原価として計上している前記七五〇万円から右一三四万七五七一円を控除した残額六一五万二四二九円は、本件事業年度の原告の損金に算入されるべき理由がないことになる。

4  被告の主張1の(三)の駒ケ根の土地建物譲渡益計上漏れについて

(一)  原告が昭和四一年四月三〇日に祐一らから買取った駒ケ根の土地建物を昭和五〇年四月三〇日に祐一に譲渡したことは当事者間に争いがない。

原告は、駒ケ根の土地建物について、原告と祐一らとの買戻約款付不動産売買契約(昭和四一年五月一日締結)に基づき祐一所有の向島の土地の売買代金から駒ケ根の土地建物の買取価額七五〇万円及びその他の費用の支払いを受け、その結果右土地建物を祐一らに返還したものである旨主張する。しかしながらこの主張は、向島の土地の譲渡代金が祐一その他原告以外の者の所得であることを前提とするが、前記2の向島の土地譲渡収益計上漏れについての項において認定したとおり、向島の土地の売買代金は原告の所得金額に算入されるべきものであるから、右の原告の主張は成り立たないというべく、前掲乙第五号証の五(原告の第二二期決算報告中の不動産等の内訳書)の、駒ケ根の土地建物は祐一らに無償で返却された旨の記載並びに証人青木繁之及び同石川守人の各証言に照らせば、右駒ケ根の土地建物の譲渡は無償による譲渡であると断ぜざるをえない。原告代表者祐一の尋問の結果中の前記原告の主張に沿う部分は措信できず、他に右譲渡に関し祐一らから原告に対価が支払われたことを窮わせる証拠も存しない。

(二)  ところで、法人税法二二条二項は、資産の無償譲渡が行われた場合であっても収益の額を計算すべきものと定めており、右収益の額は、当該資産の譲渡時における価額をいうと解される。しかるところ、証人石川守人の証言により真正に成立したと認められる乙第一二号証によれば、不動産鑑定士三原三千雄は昭和五〇年四月三〇日当時の駒ケ根の土地建物の価格を合計額において一四六一万一五三五円と評価したことが認められるが、右は専門家である不動産鑑定士による公平な第三者の立場からの鑑定評価であるうえ、右鑑定評価額を左右するに足りる証拠資料も見出されないから、右評価額をもって駒ケ根の土地建物の昭和五〇年四月三〇日当時の時価と認めるのが相当である。そうすると、前記3に認定したように、原告は、駒ケ根の土地建物を七五〇万円で買受取得した(買受代金と貸付金七五〇万円とは相殺)ものであるから、右土地建物の譲渡収益の額は、前記評価額から右七五〇万円を控除した残額七一一万一五三五円となり、右金額が本件事業年度の原告の所得金額に加算されるべきこととなる。

5  被告の主張1の(四)の寄付金限度額超過による損金不算入額について

(一)  被告の主張5の(一)の事実は当事者間に争いがない。

そして、石田コンクリート工業が債務超過のため会社資産の全てを売却したうえで昭和四七年四月末日かぎりその事業を廃止したことは当事者間に争いがなく、また、原審における証人石川守人の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第七号証によれば、原告の石田コンクリートへの貸付金は、昭和四〇年五月一日の七〇万円の貸付を初めとして同年一二月三〇日までの間に生じたものであることが認められる。

証人牛尼吉三及び同酒井芳治の各証言並びに原告代表者祐一の尋問の結果によれば、右貸付金とは、石田コンクリート工業の債務を消滅させるためにその債務者らに対して原告が支払った金員を石田コンクリート工業に対する貸付金として処理したものであることが認められるが、証人牛尼吉三及び同酒井芳治の各証言を総合すれば、原告のなした前記支払は、石田コンクリート工業の債務者との間の保証契約が親会社であるという立場から、原告ないし祐一に対する信用の低下をおもんばかって、石田コンクリート工業の名で弁済し、事実上同社に代ってその債務の整理をなしたものと認められ、原告代表者祐一の尋問の結果中のこの認定に反する部分はにわかに措信し難い。

(二)  そうすると、原告が石田コンクリート工業のためにした弁済は、当然には債権者に代位することのない、法律上の正当の利益を欠く者の弁済であり、債務者である石田コンクリート工業による求債の期待できないことが事前に明らかであった場合であるから、原告が石田コンクリート工業のためにした前記支払は同社に対する贈与と同視することができ、これを法人税法三七条五項に規定する寄付金と認定したのは正当である。

なお、本件における寄付金の損金不算入額の計算の明細は別表(二)のとおりであると認められる(別表(二)の〈1〉、〈2〉、〈6〉、〈7〉、〈14〉の各番号に該当する各金額については、いずれも原告において明らかに争わないから自白したものとみなす)。

6  そうすると原告の本件事業年度の所得金額は、その申告に係る所得金額八五二万八九一〇円に被告の主張1の(一)ないし(五)の各金額を加算し同(六)の金額を控除した四一四四万一六八円となる。したがって、所得金額を右の範囲内である三九三三万六四四円としてなされた本件更正に原告主張の違法は存しない。

四  次に各加算税の賦課決定について判断する。

1  本件における各加算税の賦課決定の前提である本件更正に原告の所持金額を過大に認定した違法がないことは右三に判示したとおりである。

2  本件更正において否認された労務費二三八万円に対応する重加算税の賦課については当事者間に争いがない。

また、前提乙第六号証、いずれも成立に争いがない乙第二号証及び同第三号誠の一ないし三、証人青木繁之及び同石川守人の各証言並びに弁論の全趣旨を総合すれば、被告の主張6の(二)(1)(2)の各事実を認めることができるところ、右各事実は、本件事業年度の法人税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するから、向島の土地の譲渡収入の計上漏れ部分一三〇〇万円に対し被告が重加算税の賦課決定をした点にも何ら違法は存しない。

3  本件更正に原告の所得金額を過大に認定した違法がない以上、増加法人税額のうち右隠ぺい又は仮装されていた金額を控除した残額の部分に対してなされた過少申告加算税の賦課決定にも違法は存しないというべきである。

したがって、本件における各加算税の賦課決定にも原告主張の違法は存しない。

五  以上の次第で、本件訴えのうち原告の申告に係る所得金額八五二万八九一〇円を超えない部分につき本件更正の取消しを求める部分は不適法であるからこれを却下し、原告のその余の請求についてはいずれも理由がないからこれを棄却することとし訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 秋元隆男 裁判官 小池喜彦 裁判官小島浩は転補につき署名捺印することができない。裁判長裁判官 秋元隆男)

別表(一)

〈省略〉

別表(二)

寄付金の損金不算入額の計算

〈省略〉

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